ミルグラム実験 ~朱に交われば赤くなる私たち~
ミルグラム実験という心理学の実験を知っていますか?
名前は知らなくても、実験内容は聞いた事があるかも。
ミルグラム実験(ミルグラムじっけん、英:Milgram experiment)とは、閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものである。アイヒマン実験・アイヒマンテストとも言う。50年近くに渡って何度も再現できた社会心理学を代表する模範となる実験でもある。――参照:Wikipedia「ミルグラム実験」
ナチス・ドイツの親衛隊将校だったアドルフ・アイヒマンは、
戦時中、数百万人のユダヤ人を絶滅収容所に輸送する責任者でした。
そう聞くと、地も涙もない、極悪人のように聞こえます。
ところが敗戦後、偽名を名乗って他国で暮らしているのが判明した証拠は、
妻との結婚記念日で買った花でした。
その日付が彼と妻との結婚記念日と一致したのです。
その後の裁判で明らかにされた彼の人物像は、
数百万人のユダヤ人を無慈悲に収容施設へ送った人間ではなく、
真摯に「職務」に励む一介の平凡で小心な公務員の姿でした。
ここで世間は混乱します。
アドルフ・アイヒマンという人は、
数百万人もの命を平気で奪った残酷無慈悲な極悪人だったのか、
結婚記念日に妻へ花を贈る平凡な男だったのか。
その疑問が、このミルグラム実験のスタートです。
実験内容は、こちら。
壁を挟んだ隣室に、AさんとBさんと実験者である博士の三人がいます。
Aさん、Bさんには協力金として実験の報酬が支払われます。
Aさんが課題に取り組み、
不正解を出したら通電をするよう
実験者である博士からBさんへ指示が出されます。
開始前に、Bさんには45ボルトの通電が
どれ程のものか体験してもらっています。
電気ショックを与えるスイッチには、電圧とともに、そのショックの程度を示す言葉が表示されている。
1.15ボルト“BLIGHT SHOCK”(軽い衝撃)
2.75ボルト“MODERATE SHOCK”(中度の衝撃)
3.135ボルト“STRONG SHOCK”(強い衝撃)
4.195ボルト“VERY STRONG SHOCK”(かなり強い衝撃)
5.255ボルト“INTENSE SHOCK”(激しい衝撃)
6.315ボルト“EXTREME INTENSITY SHOCK”(はなはだしく激しい衝撃)
7.375ボルト“DANGER SEVERE SHOCK”(危険で苛烈な衝撃)
8.435ボルト
9.450ボルト ――参照:Wikipedia「ミルグラム実験」
AさんとBさんは別室にいて姿は見えませんが、
スピーカーを通して声は聞こえてきます。
Aさんはうめき声や悲鳴を上げたり、
壁を叩いたりと、隣室で苦しんでいる様子がBさんに伝わってきます。
さらに、不正解を出すごとに、
通電する電圧が上がっていき、
ますますAさんの苦しそうな声が聞こえてきます。
実はこれは、全て演技。
実験者の博士(とされる人物)とAさんは結託していて、
Bさんが通電のスイッチを押しても、
実際にはAさんに通電されません。
実験者からは、通電しろ、
電圧を上げろとBさんに指示が出され続けます。
Aさんの悲鳴はとても演技とは思えない、
迫力のあるものでした。
はたして、Bさんはいつまで通電し続けられるのか。
どこまで電圧を上げられるのか。
これが、実験の本当の目的となります。
結果は、どうなったと思います?
ちなみに、450ボルトというのは感電死するくらいのレベルです。
事前のアンケートでは、最大ボルトまで達する人は
1.2%ほどだろうと予想されていました。
しかし実際は、被験者40人中26人(統計上65%)が
用意されていた最大ボルト数である450ボルトまでスイッチを入れた、
という実験結果になりました。
65%ですよ。
ゾクッとしますよね。
これ、ただの実験なんです。
Aさんは幾らかは不明ですが、
幾ばくかの報酬をもらったに過ぎず、
命の危険にさらされていたわけでもなく、
いつやめてもいい状況でした。
ただし、実験者である博士は
白衣を着て、いかにも権威がありそうで、
感情を全く乱さない超然とした態度で
次のように通告したと記録されています。
1.続行してください。
2.この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません。
3.あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。
4.迷うことはありません、あなたは続けるべきです。――参照:Wikipedia「ミルグラム実験」
こうした博士の権威的な雰囲気や、断定的で強い言葉、
一切責任を負わないと言質が取れると、
300ボルトに達する前に実験を中止した者は一人もいなかったそうです。
この実験は極端な話でしょうか。
私は、大なり小なり日常で起きている事だと思います。
ちょっと“おかしいな”と思っても、
彼氏、夫、上司、親、兄弟、
自分にとって権威的な人、影響力のある人から言われたら、
自分の中の“おかしいな”を表に出すよりも、
“ちょっとだから”と理由づけをして従ってしまう。
その“ちょっと”が重なって、
いつの間にか私たちは赤くなってしまう。
そんな事、よくあると思います。
だから、どんな色に身を置くかという事、
環境を整えるという事は大事。
そして、自己肯定感で朱と自分との区切りができれば、
朱の中にいても赤くなる事はありません。
最後に、私は諺が大好きなんですが、
「朱に交われば赤くなる」というのは、
悪い事に染まるケースだけを指しているんじゃないんですよね。
人は交わる友、また環境によって、良くも悪くもなる。--参照:Weblio
自分にとって、心地いい朱。
自分にとって、こうでありたいと思う朱。
平常心なんて、簡単に壊される。
あなたにとって大事な色を見失わないで。